大切なお道具に似合う袋を仕立てるとき、「どの裂を使おうか」「どんな紐を合わせようか」と想いを巡らせるのはとても楽しいひと時です。袋師は、そんなお客様の思いをしっかりと汲み取りながら、世界にたった一つの袋を丁寧に仕立てていきます。
なかなか目にすることのない袋物の舞台裏、お仕立ての方法を、愛知県名古屋市にある袋物屋「工房 多津蔵」さんに教えていただきました。
茶の袋物のお仕立てについて
「工房 多津蔵」の袋師、河合 多津子さんにお話を伺いました。
「茶の袋物の仕事をしていますと、名物裂の復刻裂や、古の貴重な裂地を使ってお仕立てする事が常となっています。しかし、茶の道具やそのお道具に誂える袋は、そのお道具を持つ方の世界観が一番大事であると考えています。こうでなくてはいけない!と堅苦しく考えず、その方の思いを汲み取って、お仕立てすることを大切にしております。」
茶の袋 お仕立てものがたり「工房 多津蔵の手しごと」~古帛紗編
裂地・型紙・絹糸・針・チャコペン・アイロン
今回お客様が、古帛紗に。と持ち込まれた裂地は、お客様のお気に入りのお着物の裂地。綾錦(あやにしき)という上品な淡い藤色がとても美しい絹の裂地です。
着物の裂地で袋物のお仕立てをすることは一般的かと思えば、実は珍しいことだそうです。
さあ、それではお仕立てを始めましょう。
■お仕立て手順■
1)古帛紗の仕上がりの大きさの型紙をつくります。(輪=わさを右にして縦15.5㎝×横16㎝)
2)裂を中表に二つ折・輪を右にし、型紙を裂の上に置きます。
3)型紙通りにチャコペンで印を付けます。(*裂によってはチャコが付かない事もあります。)
4)チャコペンでつけたしるし通りに、絹糸で仮縫いします。(*まち針で留めて縫うと、裂が歪んだまま縫ってしまうため、仕上がり寸法通りに一度仮縫いします。)
5)その後、約5ミリのきせを掛けて本縫い(平縫い)します。
「きせを掛けるとは・・帛紗を表に返した時に、縫い目が5mm内側に入るように縫う事です。縫うラインと、折り返すラインをずらすことで、針目の乱れを表に見せることなく、スッキリと美しく仕上げることができます。」
「また、本縫いの際、帛紗をひっくり返す「返し口」は8センチくらい開けて縫ってください。多津蔵では、「返し口」は古帛紗の上辺の中心に作っています。」
「三辺を平縫いで縫う際、角のところは直角に縫うのではなくて、「行き過ぎて、次の辺へ戻る。」というような縫い方をしております。」
6)最後に、「返し口」を仕上げます。糸を遊ばせるように荒く縫い、その意図の隙間から裂地を表に返し、表側から糸を引き締めます。荒く遊ばせて縫った糸の最後の部分は、平縫い線の約2ミリ上方を三目ほど細かく縫い、最後は帛紗の本体の上部へ刺して針を抜きます。
針を使う箇所は以上です。
7)仕上がり寸法の線(仮縫いした線)を三辺を追いかけるように、アイロンを使い、しっかりと折り目をつけます。(上辺→左縦辺→下辺)
8)返し口の糸を開き、返し口中心部分から裂を表側に返します。(ひっくり返す)
「この時に、角の縫い代をキチンと畳んでひっくり返すと、仕上がりの角がスッキリと仕上がりますよ。」
裂を表に返したら、強く引きすぎないように、「返し口」の糸のゆるみを引き締めます。引き締めた糸は、帛紗の表側の外に出ている際で切ります。
9)最後にアイロンを当て、仕上げます。きせ分を内側に整え、角も直角になるように整えて、アイロンを軽く掛けます。
「ふっくらした古帛紗は、一日軽めの座布団の下などに敷き、縫い目を落ち着かせかまることで、しっとりした古帛紗が仕上がります。」
いかがでしたか?
「たった一枚の古帛紗ですが、丁寧な仕事をしてこそ、スッキリと美しく仕上がるのだと思っています。」
工房 多津蔵
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